Archive for November 1st, 2004

「先入観」は、映画を面白くするか?

Monday, November 1st, 2004

フランソワ・オゾン監督、シャーロット・ランプリング主演の『まぼろし』と『スイミング・プール』の2本立てを観る。4連休の最後がちょうど「映画の日」だったので「名画座」の検索をして、ちょっと興味を持って行った。「時間の無駄」とまでは言わないが、どちらももう一度みようとは思わない。敢えて言うと、自分の先入観がどのように映画の見方に影響を与えるのかという、やや特異で、相当に個人的な経験をしたのでそれについてちょっと記しておこう。

ちゃんと調べておかなかったので、開演ぎりぎりに入った自分は、どちらの映画が始まったのか分からなかった。『スイミング・プール』がある種のミステリーだと言うことを、ずいぶん前に別の映画館で観たプレビューを観て知っていた。そして、始まった映画が『まぼろし』だと思わないでいたために、自分の見始めた映画の冒頭がトリックのある謀殺や詐欺の類の伏線であると思い込んでいた。

冒頭で主人公の女の夫が「失踪」する。それは、おそらく「ほぼ確実に事故」による行方不明であったに過ぎず、その後、すべての夫の登場するシーンが、愛する夫を失った妻の愛惜の幻影(まぼろし)であったらしいのだが、それに私は最後の最後まで気付かずに、どこでその「行方不明」のトリックの意味や、それによって女がどんな利益を得るのか、ということだけに傾注して観ていたのである。したがって、なんの「その後の事件」も、トリックの種明かしもなく、映画が終わったとき、自分が騙されていたのか、何かを誤解していたのか、それとも、理解すべき基本的なことを見逃していたのか、まったく判断できずに混乱した。どうやらそれは、極めて情緒的な夫を失った妻の「喪失と受容の物語」(チラシによる)であったらしいのだ。つまり、自分の観た映画をほぼ「ミステリードラマ」の類と思って見続けたのだ。すると、何の種明かしも事件も起こらない「妙なミステリーもの」の映画に付き合わされたような感覚におそわれるのである。

ここで、二つの考えが起こる。『まぼろし』は、やはりチラシの言うように単純な未亡人の物語であったのかも知れないし、少なくとも私が「思い込んだ」のとは意味が違うが、まったく別の意味を持っている可能性があるという考えだ。つまり、「夫を失った女の哀しみ」を描いているように見せかけて、実は全然違った内容を多層に織り込んでいる、という可能性である。(ホントか?)

しかし、少なくとも言えることは、映画の中で、行方不明になったはずの夫があたかもまだ生きて彼女の生活圏の中にいるかのように、「幻影」としてではなく、あくまでも現実的に描かれていることだ。これには、おそらくミステリー(推理もの)だと思わなかった大半の鑑賞者でさえも、幻惑を感じたのではないだろうか。もし、夫がまだ生きているとしたら、「行方不明」になっている、ひいては、すでに「死亡」しているという彼女の周囲の共通認識は、いったい何のために作られたか、と考えるのが普通である。つまり、夫の生存を妻が周囲に隠しているという風にしか鑑賞者には映らない。だとしたら、何のために? それによって、彼女は一体何を得るのか? そのように考えるわけである。

もし、現実的に生きているのではなく、それが彼女のみている幻影に過ぎないのだとしたら、あそこまで夫の幻影を現実的に描くことの理由とは何だろう。いまだに謎なのである。少なくとも私には、まったく価値のない思わせぶりな映画なのか、観るもの自体も騙してある種のミステリー体験をさせようという、映画ならではの二重の騙し絵を意図したものなのか、それが分からないのである。

そして、二作目の『スイミング・プール』でも、「こっちの映画はまだ分かりやすいし、少なくとも理解を絶したトリックはない」と思って観ていたら、最後の最後にどう考えたらいいのか分からない「種明かし」が起こる。やはり、フランソワ・オゾン監督は、高度な騙しを狙っているのか?

シャーロット・ランプリングの演じる主人公は、どちらの作品に関しても、共感したり同情を抱いたりできるような人物としては描かれていない。意地悪く言えば、むしろ、生経験豊富な嫌な性格の成功者である。その辺りにも、監督が何を狙ったのかを観るものに追えなくさせる「失敗」の原因があったようにも思える。むろん、そう鑑賞者のひとりが思ったことが、監督にとっての「成功」なのかも知れないが。

やっぱり、心変わりしないで、阿佐ヶ谷に加藤泰・特集「抒情と憤怒」を見に行った方が、良かったのかも知れない。直前で「色気」を出したのがイケなかったのか?

Trackback削除

Monday, November 1st, 2004

せっかくTrackbackがあったのに、文字化けしていた。その文字化けが原因で、携帯からページが閲覧できず、あえなく削除することにした。悪い気がするね。β版のせいかな。