Archive for November 6th, 2004

金曜から土曜の「夜を駆ける」ろまんす

Saturday, November 6th, 2004

仕事の帰りに、海を観たいという連れ合いと待ち合わせをして、泊まりがけの「小旅行」をした。今から思えば出だしから無謀だったが、まったく何のプランも立てずに、とにかく三浦半島の三崎口まで行ってみようと、普段乗り慣れていない京急線の「特快」に乗る。その時点ですでに21時24分。久里浜行きしかなかったが、そこに着いてみると三崎口行きの電車が連絡待ちしている。それに乗り継いで23時近くに三崎口に到着。電車に乗ってから1時間半ほどしか掛かっていない。だが、こんな時刻に電車で三浦半島まで「観光」しに来る酔狂はいないらしく、駅の外も人がまばら。周りは暗いので一体どこに海岸があるかも、果たして宿泊するような場所があるのかも、まるで五里霧中。

バスを待つ数人の人がいたので、その辺りをうろつきながらどうするか思案する。とにかく、駅の周りには何もない。国道を適当に歩いて「いかがわし系」の宿泊施設のひとつも見つけようかと思ったが、駅前の地図をみて、思いのほかどの海岸にも相当の距離があることを知って一瞬唖然とする。最低でも直線距離でも1.5kmは歩かなければならない。しかも、主要幹線道路は海岸線に面してもいない。それでは風光明媚な宿泊所も期待できないではないか。

まだ「油壺」を通るバスがあるのを知ったので、とにかく気を取り直してそれに乗ることにする。もう少し観光地らしき場所まで辿り着けば、何か情報もあるだろうと期待したのだ。バスの中で彼女は緊張していて、空いた席に座ろうともしない。油壺を通ったときは、バス路線近辺に宿泊できるような「施設」のネオンもない。とりあえず、乗っていたら三崎口駅付近よりもっと暗くて、右も左も分からない終点(三崎東岡)に着いた。

とりあえず海岸を観たいのか、宿泊場所を確保するべきか、それさえも判断が付かずに幹線道路を右往左往していたら、さるタクシー会社の「詰め所」が煌々と明かりを付けていて、10人ほどのヒマを持て余した運転手たちが待機している。この期に及んで相変わらず港がどうのとぶつぶつ言っている連れ合いを無視して、宿泊場所の確保を優先することを決意した。タクシーを出して貰い、「油壺辺り」というあいまいな指示をして、とにかく「街を目指して走って貰う」ことにした。

そして、「宿泊できるよーなトコロはありませんかね」と落ち着き払ってドライバーに尋ねた。一瞬、運転手さんはあっけにとられたような沈黙をしたが、油壺にあるという何軒かの観光ホテルを目指して走ってくれることに。2箇所のホテルのロビーに寄ったが、「満室」。そのたびに僕は小走りにタクシーに戻った。その内の1件(民宿)には、親切にも運転手自身が当たってくれたりしたが、「やっぱり時間が遅いですからねー」と言って運転席に戻ってくる。

僕たちとしては、どんな種類のホテルかは問わなかった(最初から)。運転手の立場でいきなり「その手の宿泊施設」の前に止めて、「さ、着きましたよ」というのはサスガに気が引けるらしい。それで、「どんなところでも良いんですよ」とこちらからそれと分かるように念を押した。そして、ネオンのあるところを通過したときに、「あすこはどーですかねー。空いてるんじゃないですか」と促してみると、「いいんですか...」と運転手さん。「(こんな時間にこんなところをウロウロしている僕たちには)選択できる立場じゃないですからね。ちょっと戻ってみて貰えますか?」

すると、運転手はこう言うのである。「あすこは汚いっすよ。」ほう、きれいじゃない? 知ってるんだ...。それで、「三浦海岸の方はどうですか」と試しに訊き返すと、あるという答え。10分くらい走れば着くと言うし、まだ走行距離もまだ大したことはない。「そこいいっすよ」。そうして「そこ」に大いに期待して走って貰うと、美しい三浦海岸から房総まで見える東京湾の夜景が高台から見えてきた。すでに来た甲斐があったと言いたくなるような景色。

ほどなくして到着した「宿泊施設」は、海岸の波打ち際に面していて、とてもその手のものとは思えないような理想の立地条件なのである。しかも、ご存知の通り、この手の「素泊まり」は観光旅館や民宿よりはるかに「リーズナブルなお値段」である。期待に胸を膨らませて部屋に行く。

レースのカーテン越しにバルコニーが見える。そこでは、優しく絶え間ない波音がすぐ下に聞こえる。薄い雲の隙間から下弦の月が赤く輝き、海面を青白く照らす。遠く海岸線には明滅する夜景。そして月明かりにうっすらと照らされる静止したような遠くの大型船。まるで、正確に「ここに泊まるため」に無謀な小旅行を企てたかのようであった。

共犯者になってくれたタクシードライバーにはお礼を言いたい気持ち。サスガ地元の人!

部屋の作りもプロバンス風を装った簡素なもの。まったくケバくない。

薄ベージュの木製のフレームに入った鏡。



貝殻?をあしらったセンスのいいベッドサイドの装飾。たっぷりアロマの入った、ゆったりと身を横たえられる湯船。有線からはドヴォルザークの熱いピアノ五重奏が聞こえてくる。
そして…。

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