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ソメイヨシノはなぜ特別なのか(entee流補説)

Thursday, March 3rd, 2005

現在各方面で大活躍中の「現実庭師」の畏友I氏が「地上の星、天上の桜」というタイトルでblogを書いている。最初、記事タイトル自体にはあまり注意を払わなかったが、ふとその意味を考えてみると、あれっと立ち止まらざるを得ぬところがあった。「地上の星」というのは、おそらくこのところ有名になったある歌を意識しただけかもしれない。が、「地上の星」に「天上の桜」を対置させているところが特に良いのだ。「桜」≒「星」と考えるメンタリティというのは、実はそんなに新しいものではなくて、五芒星を大胆にあしらった合州国の星条旗を初めて見た江戸時代人達がそれを最初「花条旗」と呼んだらしいところからも伺える。これは最近I氏の「趣味」に関心を持ってA新聞で寸評を書いている偉大なる博物学者A氏がどこかで書いていたことだと記憶する(なぜ星が5つの角を持つ「五芒星」になったのか、なんてことはここでは深入りすまい)。つまり、当時の日本人はそれを「星」であると読む決まりを知らずにも、白い星々を五弁の花びらの花と見た訳だ。だが、重要なのはそれを星と気付かなかったという点ではなく、「5」という数性にはきちんと着目していたという点にこそある。つまり、その五芒星は星であるということを一気にすっ飛ばして、より重要かつ本質的な「性質」だけをきちんと「異境人」たちにコミュニケートした、と言うことができるのである。

さて、さらに興味深いのはその日本が合州国と(どんな手続きを経たにせよ)国交を持ったあとに、日本の権力者がやったことである。私がまだ読んでいない「桜が創った『日本』- ソメイヨシノ 起源への旅 -」でも言及されていることかもしれないが、日本が米国に「ソメイヨシノ」を贈ったという逸話である。今では春になるとポトマック川河岸で満開になって、観光客たちをはじめ、政界を含む権力に近い人々をも喜ばせているワシントンDCのサクラであるが、明治時代に「日米親善の徴」として贈られたものであることを知る人も少なくないであろう。

だが、この五弁の花、しかも満開になったらすぐに潔く一気に散ってしまうというその「無常の徴」を米国に贈り物として献上し、ホワイトハウスからほど近い場所に植えさせ、しかもかの地の人々が愛でるようにした、というのは、実になんとも心憎い計らいだったと思えるのである。隠しながら「情」を伝えるという万葉の時代からのヤマト人の伝統的マナーは、当時も生きていた訳である。まさに「地上の星、天上の花(桜)」である。