Archive for March 2nd, 2010

ユーラシア西端へと到達した《鶏》

Tuesday, March 2nd, 2010

しまねイン青山にてオクサス学会の第1回講演会が行われる。講演者で、発足者のひとりである前田耕作氏の講演タイトル「曙を告げる雄鶏」を見たときから、これは期待が持てそうだという予感があったが、まさにそれは的中した。

Peter's Denial

Peter's Deinal 2Denial cross

le coq sportif logo

▲Le Coq Sportifの正式ロゴ

(三つ又に分かれている尾は、フランスの数性”3″を反映している。)

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雄鶏の象徴物が、アスカランとクシロフから出土したということから、この地域と雄鶏の象徴との浅からぬ関連が示唆される。そして、雄鶏が繁栄や豊穣を意味することが説明される。配られたレジュメには、さりげなく「使徒的利用」という文言が、取り立てた詳述もなく、記載されているが、この「使徒的」というのはなんであろう?それについては後ほど自分の憶測を述べるかもしれない。

前田氏は講演の中でゾロアスター教の教典アヴェスター(XVIII 13-29)における記述を引用する。

いざ起きん。雄鶏が我を起こせり。二人のうち、初めに起きし者は、初めに極楽に入るべし。最初の良く洗いたる手にて清き薪をアフラ・マズダーの子なるアータルに持ち来たりし者は、アータルはその者に喜び、怒ることなく祝福して言えり。牝牛も子供も殖えよう。汝の霊魂の喜びに生活するをえん。

言うまでもなく、ここで言及されているところの「起きる」とは、「早起きは三文の得」というような世俗的な倫理観を説く、睡眠からの日々の起床のみならず、別の意味の《覚醒》をも暗示する二重の意味構造を持つものだと考えるのが妥当であろう。文明の光に当てられた人には、かくのごとき恩寵があるのだという風に読むこともできる。朝の太陽光に照らされるという恩寵に先立って、それを可能にするのは誰よりも早い時間に起きて、人を目覚めさせるために時間を告げる鶏の声(神の呼び声)に他ならない。

一方、「清き薪」という供物についてだが、ここでも朝のルーティンとしての「薪集め」ということもあるのだろうが、「特定の火」を崇めることとの連関が、この節にも怠りなく言及されていると考えることができるのではないだろうか?

前田氏のレジュメに雄鶏と雌鳥の対で「豊穣」(女性原理)と「繁栄」(男性原理)を象徴するという記述があったが、「繁栄」というのは言い換えれば「男性的な生殖力/精力」のことであろう。つまり豊穣は「孕む力」であり、精力は「孕ませる力」である。面白いことにrooster(雄鶏)を表す言葉に「cock」(仏語では「coq」)があり、英語では隠語にも事欠かない類義語の存在もある。

さて、講義自体はムハンマドの「白き雄鶏はわが親しき友なり。その悪魔の敵なるがゆえに」という、悪の支配の終わりを告げ、人々を惰眠から目覚めさせる曙(あかつき)のファンファーレに言及されて終わったのであるが、講演が一通り終わり、パーティーとなったときに、食事をする前田耕作氏に新約聖書と東方の伝統の関連について尋ねようとして、次のことを訊いた。「嬰児イエスの誕生を告げるベツレヘムの星を目指して東方からやってくる三賢者(マギ)が、ゾロアスター教徒であったことが、先生の著書『宗祖ゾロアスター』でいきなり断定されていましたが、そうした関連がキリスト教とゾロアスター教の間にあるのであれば、なおさらですが、雄鶏と耳にしてすぐに連想するのは、福音書におけるペテロのイエス否定(Denial)のエピソードです。イエスが雄鶏が鳴くまでにお前は私を3度否定すると予言し、その通りになった話ですが、それとの関連は?」

私の話を聞いて深く前田氏は頷いた。その反応に満足した自分は、さらにLe Coq Sportifというフランスのスポーツウェアメーカーとそのロゴ、そして映画『炎のランナー』でも見られるような、陸上のフランスチームが来ていたウェアにはっきりと見えたLe Coqのマーク。どのような関連がフランスと雄鶏の間にあるのか?

Iron Helmet of Gallic Warriors

Gallic helmet

le coq cap

▲ガリア人ならぬ現代人も「闘う者ども」は、鶏のデザインの帽子を冠る。

Blue Gauloise

▲雄鶏の羽をつけたガリア人のヘルメットをあしらったオーソドックスなゴロワーズのパッケージ

Old Gauloise

▲旧ゴロワーズパッケージ

Gauloise with Rooseter Back

▲パッケージの裏には雄鶏が

すると、鶏を意味するラテン語の単語が「gallus」であること、そしてそれが「ガリア:Gallia」や「ゴール:Gaul」の語源であること、などを説明した。そして「ガリアはつまり(ローマ時代の)フランスだ。雄鶏はフランスのもうひとつのシンボルだ。もっと言うと、タバコの銘柄、ゴロワーズ:Gauloise」も同じ」というのだ。そして、時間が許せばそこまで話をしようと思っていた、というのだ。なるほどフランスと雄鶏はこうしてローマの時代につながっていたのである。雄鶏はことによるとゲルマン民族などに追われてユーラシア大陸の西端に到達するが、そのとき暁を告げる雄鶏も共に西欧に至った訳である。

Online Etymology Dictionary で調べると、確かにGaulはgallusと関連しており、さらにGallicからは、Gaelic(ゲイル語/ゲイル人の)との関連が指摘されていて、つまりフランス人の蔑称としても使われることのあるGallicには、ケルト由来のGaelicとも類縁関係にあることになる。

さて脱線するが、面白いことに、シャルル・ド・ゴール(De Gaulle)もまさに語源的には「Gaul」を持っていて、それがフランスの政治世界を代表する指導者であったことは偶然であったとしても、やや出来すぎた話なのである。Gaullist(ド・ゴール治下の)やGaullism(ド・ゴール主義)などの固有名詞「ド・ゴール」から派生した現代語も存在するのである。

Charles De GaulleGallia Cigarrettes

▲その名も「ガリア」というフランス・タバコ。並べてみると、ド・ゴールの帽子をかぶったシルエットと驚くほど似ていなくもない。(タバコ「ガリア」においても雄鶏の尾が「三つ又」に分かれていることに注目。加えて、「TRIPLE FILTRE」であることも興味深い。)

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真の問題は、雄鶏とフランスという国が象徴で結びつき、さらに雄鶏が「ペテロの否定:Peter’s Denial」と結びついたときに、それが福音書にどのような解釈を許すことになるのか、ということである。福音書が「過去にメシアの上に降り掛かった受難: Passio」を伝えるものであると同時に「未来への福音: Gospel/Godspel」、すなわち未来への先触れ(予言/予兆: Herald)であると理解できる時、福音書を読み解く役割を持っているわれわれは、「フランスが来るべき世界において、どのような役割を果たすことになるのか、あるいは果たしつつあるのか」、ひいては未来の神話の地(聖なる地所)となる、今日の脱聖化されたヨーロッパにおいて、どのような役所(やくどころ)が与えられることになるのか、というところまで洞察しなければ、未来の象徴学の《総合の要請》に応えることはできないのである。

図像引用先/参考サイト

Learning Disabilities: Beyond the Classroom

Rainbow Tracer Novelties

聖ペテロの否認

Cock on the Walk

lasagacigarette.com

Roman Numismatic Gallery

La Wren’s Nest

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