「日本的なるもの」へのわれわれの音楽的取り組みとは?

「日本的なるもの」へのわれわれの音楽的取り組みとは?

とか、小難しい題を付けたが、これはひとつのライブイベントを聴いたときの単なる印象である。「日本的なるもの」への取り組み方をとっても、3つのユニット(ソロを含む)がこれほどまでに違った結果をもたらすというのは、実に興味深かった。また、「日本的なるもの」がそれぞれの出演者たちによってどのように解釈されたのか、というアプローチに相違によって、他でもない自分がどこに立つべきであるのか、を図らずも考えるきっかけとなったのである。

自分は、日本人でありながら、西洋音楽の楽器を手にして、西洋発の「音階解釈」によって限定されている音楽表現に取り組んでいる。

自作楽器を用いて日本の古典を奏でるというアプローチ。非日本発の楽器や表現手法を使いながら、日本の古典楽器と伝統唱法とコラボレーションするアプローチ。そして、日本発の楽器をバンドに組み込んでジャムるというアプローチ。

果たして、自分に「日本的なものをせよ」と迫られたときに自分が出来ることとは何であろう。自分の立ち位置を変えてまで、日本的なものを奏しようと思うのであろうか? 日本的なものを取り上げるとき、われわれは日本の古典に戻らなければならないのであろうか。日本的なものとは古典の中にこそ見出されるものなのであろうか。などなど、つらつら考えてしまったのである。これは早い話が、人がどうだったという以前に、すべて自分が考察するべき問題なのである。もちろん、「日本的○○」というものに全くこだわらないというアプローチがあっても良い訳だが。

さて、昨日金曜日の夜は、尾上祐一氏「ライヴシリーズ日本の味 初夏の巻」を聴きに国立・地球屋へ。実に有意義な時間を過ごした。

以下データはウェブからの転載:

尾上祐一(回擦胡、RibbonControler)feat.亜弥(舞踏)

(「コントローラ」は、スペルがControllerのはずなんだけど。)

尾引浩志(=倍音S、ホーメイ、イギル、口琴)

今井尋也(能うたい、小鼓)

ヒゴヒロシ(ベース)

つの犬(和太鼓セット)

森順治(バスクラ、笛、尺八)

尾上(おのうえ)氏とは無力無善寺のライヴイベントで以前ご一緒したことがある(噂では某社「カ○ス○ッド」の開発者でもあるとか)。そのとき、印象深い「回擦胡」という自作楽器を演奏していた。「二胡」(二弦琴)の一種なのであるが、通常に非ざるところは、あたかもフィッシングロッドについているリールを回すように、ひたすらくるくると楽器に付いたノブを回すことでパーツが微妙に弦をコスり、音を出す。弓(ボウ)なら一定の所まで弓を引いたらどうしても「返し」が来るが、この楽器は基本的に一方向にくるくる回すばかりだから、延々と長いロングトーンを奏することが出来るのだ、弦楽器のくせに。しかも吹奏楽器にはどうしても関わってしまう肺活量やブレスとも無関係に伸ばせるのであるから、原理的にはハーディガーディのようでもあり、感覚的にはバグパイプのような持続音が造れる楽器な訳である。実に妙な楽器だが、その音色はまるでシルクロードを西の端から東の端までを一気に横断する(Aquikhonne曰く、音の「アカシャ年代記」の)ような懐かしいエスノ感覚がある。「日本の味」と言うよりは、「二本の味」。つまり2本の弦でドローンとメロディを作り出す「シルクロード沿いの味」というのに近い。しかし、アジアの味をエスニックと感じてしまう自分って一体…。

今回は、回擦胡以外に、尾上さんのもうひとつの自作楽器、「リボンコントローラー」の演奏を聴くことが出来た。これは、まるで大正琴のように膝の上にボードを横に置いて両手で演奏するのであるが、まったくもって見事な手さばきである。単音しかでない初代モーグシンセのようなアナログ的な音であるが、原理的には発振している音源部はアナログで、加工(エフェクト)している部分はデジタルであるそうな。だが、その音たるや、尾上さんの趣味でそのような音を選択しているのであろうが、実に古色蒼然としているのであるが、それが実に心地よいのである。オンドマルトノを思わせるピュアな波形を選んでいるのだろう。なかなか強烈なシンプルさである。温度でアナログ発振部の回路に影響が出て音程が変わってしまう(らしい)あたりも、実にアナログ的な楽器の難しさを残した名器(名機?)なのである。それで、尾上さんは日本の唱歌や黒澤映画『羅生門』のテーマなどを奏でたのであった。渋い。

第2部の尾引氏は、初めて聴いた。そのホーメイや口琴の表現力。あれは一体なんなのだ。どこで修行をしたのだろう。彼の口琴は文字通り「人間テクノ」ではないか。「日本の味」と銘打たれたライヴにも関わらず、ソロでは、徹底して自分の「立ち位置」「守備範囲」でその芸を見せる。その潔さが良かった。言っては何だが、全然「日本の味」とは関係がない。だが、彼がゲストとして共演した今井尋也氏(能うたい、小鼓)とのコラボレーションで、初めて「日本の味」の合作をした訳である。ゲストとは言っても、後半の二人による共演は筆舌に尽くし難い「互いの良さを引き出す」シナジー効果を見せ、ゲストを呼んでまでやる意味というのを見せつけてくれたのである。すでに倍音sのCD録音でも聴けるらしい今井氏との共作を今回はライヴ状況において2人で再現してくれたらしいが、鼓を叩きながらの掛け声や能謡の発声と尾引氏の倍音唱法が全く自然なものとして解け合う。今井氏のオリジナルテクストを謡いの様に2人で朗吟するところなど、岡本喜八の『ああ、爆弾』の冒頭を思い起こさせる。なにしろ、こういう日本の古典芸能の発声法で二人の声が「合わさる」ことで醸し出される力というのは実に強烈だ。あとで、今井氏に話を聞くと、「謡い」に関しては今井氏本人がリハを通じて尾引氏に「稽古を付ける」結果になったと言う。実にうらやましい共演(共犯)関係である。

第3部のセットに関しては、いろいろ言えることがある。一言で言うと、それは「何か」だった。悪く言えば、それぞれの演奏者の立ち位置というものが「見えない」ところが残念。言うまでもなく、良いところは何ヶ所もあった。だが、それぞれのメンバーが押しも押されぬ一級の奏者でありながら、演奏を聴いている間中「普段の守備範囲外のことをやっている」という居心地の悪さに終止付きまとわれた。森さんを始めとして、普段やっている「自由形」の即興演奏を通じて、いくらでもそこから底はかとなく滲み出てくる「日本的な情緒」というものを垣間見ることが出来ると思うのだが、日本の民謡その他(日本を思わせる旋律)をそのまま笛で吹く、そのアプローチはいかにも残念だった。今まで素晴らしい演奏を何度も聴いているので、それは意外な驚きなのであった。

つの犬さんのいつもの破綻寸前まで感情的に盛り上げるそのスタイルとエンターテイメント性には、今までと同様の共感を覚えつつも、彼から働きかけられる共演者への「音と眼差し」を通してなされた折角のコミュニケーションも、ある種の疎通不全(私にもよく起こるらしいものだが)、そしてヒゴさんのベースが良くも悪くも絶対に揺るぐことのない音楽的基盤を決定していて、活かされないのであった。

ただ、どんな結果であるにせよ、それが3人が考えた上、どうしても実現したかったプロジェクトであるということには一定の理解は出来る。オリジナル曲を提供したヒゴさんにとってもそれはやりたかったことのひとつであったには違いない。彼の個人的な音楽の嗜好の一部を垣間見ることができたし。だが、あれがほんとうに「それ」であるのか。それはどう見積もっても、もっと良くなる余地のあるプロジェクトであり、その「胎動期」に自分は立ち会ったのだ、と考えることにする。(いや、「曲」をグループ演奏していない自分が偉そうなことを言えた立場じゃないんだけど、まったく。)

註:赤字部分は、尾上氏自身のチェックにより入った「赤」である。まことに尾上氏に感謝なのである。(05/31/2005記)

One Response to “「日本的なるもの」へのわれわれの音楽的取り組みとは?”

  1. 尾上祐一 Says:

    いやぁ、ほんと詳細なご感想、大変感謝しております。冒頭で書かれている通り、今回ヒゴさんのほうから「日本的なものを」との御題で
    ライブに挑んだんですが、日ごろ殆どは「自分の好き勝手に音楽をやる」だったのに対し、今回のような題目があると困難が増えましたが、学ぶことも多いですね。なんか今回の企画で奏法の幅も広がった感じがします。尤も、まぁ自分は好き勝手派なんで、好きな御題目でないと一所懸命やらないとは思うのではありますすが。日本の古い音楽は、子供のころ、祖母が民謡や演歌をローファイラジカセで大音響でよく流していたんで、その辺の原体験があったのも今回に活かされたんじゃないかなと思ってます。アカシャ年代記も読んでみたいと思ってます。

    共演された方、それぞれが良いものを持ってたと思いますが、尾引さんのパフォーマンスは僕も同感ですね。もってき方が実にうまかった。

    あと、リボンコントローラ、スペルはRibbon Controllerですね。ご指摘ありがとうございます。逆に当方から、ちょっと修正系のコメント
    です。

    #「カ○ス○ッド」の発明者
    ⇒開発者にしておいてください(笑)。

    #楽器本体はアナログで、発振している音源はデジタルらしい
    ⇒発振している音源部はアナログで、加工(エフェクト)している部分は
    デジタルである。

    #温度で金属製リボンの電気抵抗に影響が出て音程が変わってしまう
    ⇒温度で、アナログ発振部の回路に影響が出て音程が変わってしまう。

    どうぞ宜しくお願いします!

Leave a Reply

You must be logged in to post a comment.