オブリガートなオーボイストになった夜

矢野敏広さんは、李政美(イ・ヂョンミ)さんや、enteeが敬愛する趙博さん(パギやん)、朴保さん(パク・ポウ、パッ・ポオ)[以下敬称略]などの弾き語り系のバッキングメンバーとして欠かせない「オチることなく、いつも寄り添うようにそこにいる」繊細緻密なギター + マンドリン奏者である。彼の伴奏ギターの音を聴いていると「信頼される理由を持ったプロだなあ」と嘆息させられる。いつも日本中を旅して回って大忙しである。

2年ほど前に即興 + コリアンロックの佐藤行衛さんを通じて知り合った。なぜか矢野氏も不思議な縁を感じる人。行衛さんを通じて知り合った関係で、行衛→韓国→矢野という流れであるにも関わらず、私は別の「系統」でも矢野さんと「コネクトした」のである。アメリカ滞在期間中、その当時、西海岸で「快進撃中」だった超国籍的レゲエの朴保バンドの音源だけをビレッジに住むある友人夫妻を通じて聴かされていたからである。しかも朴保の名前を自分は十年以上失念していた、というオマケ付きである。

一年前か、矢野氏に<もんじゅ連>ライブのゲスト出演をして頂いた後、自宅近くで飲んだ。その時、私が何度も聴かされた「忘れられないあの音楽」が朴保本人であることが劇的に判明したのだった。その後、朴保のことをいろいろ調べたまくったところ、全ての条件が符合したので。それが彼であることに今は一抹の疑いさえない。

だが、矢野さんがその朴保のグループの永年のメンバーの一人であったとは! これは以前にも、別の「音つながり」の縁の不思議についてentee memoで語ったとき、言及しているので知っている方にとってはもはや退屈なだけの話であろう。

さて、その矢野さんとAquikhonneの3人で10月にライヴを予定している。これは、これまでの自分の経験にない「癒し系朗読」パフォーマンスとなるかもしれない。このようなことを書くと早速「共演者」からもお仲間からも反発を買いそうだな…。案外この一言で流れたりして(口は災いの元なのだ)。

その矢野さんから先週末電話があり、廬佳世さんの新アルバム録音でオーボエを吹いてくれないか、と言うのであった。矢野さんはどうやら本アルバムのプロデュースもやっているようである。ありがたいオファーであったので、自らの未熟さも顧みず、二つ返事で引き受けた。「歌もの」でイントロとオブリガートだけの演奏であるが、バラード風の曲のそうしたオーボエ伴奏は、一度心底からやってみたかったことだったのだ。

仕事が終わった後、楽器を抱えて雨の中を新宿の某スタジオに向かう。想像した通り、スタジオは地下室。集中豪雨になって大量の雨水が流れ込んだりしたら嫌だななどと思ったが、思いのほか雨はひどくならず。

スタジオの皆さんは初めて会うような気がしないほどに気さくな方々。おかげで無用の緊張を強いられることはなかった。

9時近くからスタートして、11時半頃に終了。実にいろいろなことを学んだ。既に録音済みのトラックを聴きながら、音を重ねていく典型的スタジオ多重録音の作業であるが、イントロと間奏部以外をどうするかは明確に決まっていた訳ではない。一つは自分がどう出来るかが試されるのであるが、エンディング部でついにネを上げ、私が「最良のオブリガート」をアドリブできない(出来るんだろうけど、いつ最良テイクが録れるかが見当もつかない)ことが判明し、急遽、矢野氏のお仲間のアレンジャーが20分ほどでオブリガート部を作成する。いわゆる「緊急現場合わせ」である。しかし、彼の作り出したオブリガートの美しいこと! 鉛筆で書かれたこの世に一つのパート譜を見て、「そーゆーふーに書くのか!」舌を巻いた。譜面化されたオブリガートを基に、それを何度か吹いてオーボエトラックの完了。ちょっと悔しくもあったが、実に面白かった。

おわったら廬佳世さんの歌の詩がますます心に染みてきた。

アルバムはうまく行けば10月頃にリリースの予定らしい。

先日ちょっと参加した石塚トシさんのアルバムも秋頃リリース予定だし、いろいろ楽しみな秋なのである。

こういうことが週中に起こると、興奮して眠れなくなって、翌日ほとほと困るのである。

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