大国の防弾チョッキとしての日本

折しも田中宇(たなかさかい)氏(以下敬称略)のウェブ評論紙『国際ニュース解説』に「朝鮮半島を非米化するアメリカ」という論考が載った。まずはそれをざっと読まれたい。本論はそれについての私なりの論評である。

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これは他国との緊張をいたずらに強調し、日本国の防衛力増強論に加担しあるいはその論理に追従する意図を持たない。最後まで読まれれば明らかだろうが、その逆である。象徴的(あるいは無意識的)にプログラムされた民族の「元型的行動」というものを認めた上で、そうなっているから気をつけろと言いたいのである。予言者はそれが如何に否定的な予測であっても心の奥底ではその成就を望む、なぜならばそれが予言者としての権威強化に繋がるから、という金言があるが、私はそのような予言者であろうとは思わない。自分と家族の安全を願う一庶民である。

核兵器を隠し持ったまま(あるいは開発段階の核技術の凍結しただけ)の北朝鮮(北韓)を自由主義経済国の韓国(南朝鮮)が呑み込む形で朝鮮/韓半島が統一され、半島はなし崩し的に核武装された「大」韓民国となる(「青の水玉:月」の誕生)。あるいは、左傾化した韓国が北朝鮮と融和する形で国家統一される。それが平和裏に行なわれるのか、実力闘争の末に行なわれるのかはともかくとして、それが「成る」ことで、この統一国家(「大」韓民国)は中国にとっての「矛」となる。米国にとっての「矛」は依然として日本であり、それを核武装させ、同じく核武装された「大」韓民国と対峙させることで、極東アジアは米中両国にとって真の緩衝帯となる。何か「事態」が起こったとしても、中国も米国も無傷(?)で、大韓民国と日本との間で「青の水玉:月」と「赤の火玉:太陽」の東西対決(蝕)が生じる。これは超・歴史的(ほぼ1万2千年周期)にこの地域で繰り返し繰り返し行われて大地に刻まれて来た元型的事象だ。現在、日本の国技である「相撲」という儀礼の形でも伝えられて来た「裏道教」(密教)が象徴する一大イベントである。

田中宇の論考は、朝鮮半島がいよいよ中国の傘下に入ると言っている(「北との和解は在韓米軍の撤退につながる」)点に於いて、今後の時流を正しく捉えていると言えるが、それに引き続きすぐにでも(2、3年以内)日米の安保解消が起きるというのは、こうした象徴的運動としての歴史観を欠いている証拠であるし、それはある程度致し方ない。ひとにはそれぞれの役割があるのだ。

さらに、現韓国が米国の「勇み足」に躊躇を覚えているという田中宇の主張もおそらく正しい。現韓国政府が中国政府とも比較的良好な関係を維持しているのが前提だとして、また最終的に韓国も朝鮮半島がひとつの国になることを望んでいたとしても、それはすなわち日本との全面対決になることを彼らが本能的に知っているわけで、それは長期的には自国の「悲劇への道」を一こま進めることにしかならないのをどこかで諒解しているからで、しかも対決が不可避であるなら十分に準備をして「安全」を確保した上でそれに臨みたいのである。また、当然のことながら韓国が朝鮮半島統一を自国(南)の主導で進めたいと考えている以上、その右派が「(自国の)“左傾”化を黙認するアメリカ」に対して、憂慮しているというのも十分にメイク・センスするのである。

また田中宇が書くように、北朝鮮とアメリカは質実共に休戦状態であるものの、北朝鮮との休戦協定を結んでいない韓国にとっては、いくら財界同士の歩み寄りがあったにしても、未だに戦争状態(「 」付きの「休戦状態」)である。したがって統一という方向は大局的に望んではいて、そちらへと進んではいても、自国にとって都合の良い形での統一を南北両方が望んでいる以上、それ相応の駆け引きや緊張状態が続くだろうことに違いはない。どちらに転ぶにしても十分な準備期間が必要なのだ。そもそも、もはや米中が(建前上)冷戦を止めている以上、南北朝鮮は朝鮮戦争のお題目をすでに失っているのだ。考えてみても解るが、敢えて自民族同士で殺し合いをするようなことは避けたい。そもそもお題目は対日(反日)の一大勢力としてあるべきであった。アメリカとの関係(あるいは東西対立の関係)の中で「対決」することを忘れていた韓国(南朝鮮)も、久しく対決することを厭わないできた北朝鮮(北韓)によって、その「超・歴史的役割」に目覚めつつあるのである。

朝鮮半島の南北統一は、日本との宿命的対決とワンセットである。だが、日本の普通の人々であるわれわれも、朝鮮半島に住む普通の人々と共に、ヒューマニズムに則って、他者のイベントである南北統一を祝うのと同時に、統一されたその国家との来るべき宿命的対決をなし崩し的に溶解させるだけの超意識(無意識を超克する心)を進展させなければ生き延びることは出来ないだろう。そのために、われわれは地上のあちこちに刻まれた象徴の伝える警鐘の連鎖を読み解き、われわれの生存に役立てなければならない。

アメリカの朝鮮半島からの完全撤退はある。これは田中宇が書いている通り、遅かれ早かれ完遂される。だがそれは普通に行けば日本とアメリカとの「一層の関係強化と一体化」にしか結びつかないし、日本の防衛庁の省への昇格さえ、アメリカからの独立を目指したものでは決してなく、より緊密でよりアメリカの思い通りに動けるようになるための、最初から最後まで宗主国アメリカ合州国の利便のために行なわれる動きとして理解されるべきなのである。その点においてのみ、田中宇の日米関係の自然解消についての「読み」は、当たっていて欲しいが、残念ながらそのように簡単にはならないと言うべきなのである。

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