ノスタルギアとは何か(定義1)

定住革命

「未開」が文明化以降の時代よりも良かったとか、縄文文化の人びとはそれ以降の弥生文化よりも素朴でありつつも豊かであったとか、定住民よりも非定住民の方がストレス・フリーで創造的な生活をしていた、というような、ある種低次元なノスタルギアに裏打ちされたかに聞こえる言い方で表される「先史時代の人類についての憧憬」というものがある。これは、その後1万年以上を掛けて続く緩慢なる定住革命、そして直後にやってくる農耕革命、そして内燃機関を発見した後の産業革命といった「近代化」や「現代化 modernization」の時代を生きるわれわれの方が“生きるのにどれだけ有利になっていると思っているのか!”という、非難にも似た理性と科学至上主義で以て、一笑に付される可能性のある言い方だ。

だが、「昔は良かった」という言い方に潜んでいることの意味は、当該のそれぞれの時代に生きているヒトの食料事情や衛生状態といった生活条件や、平均寿命で表される生物学的な個体生存上の優位における比較の中に見出されるものでは断じて無い。ノスタルギアという言葉で低く観られがちなその感覚は、単に詩的なセンスだけで表明される吐息ではなく、むしろ変わらぬ生存と持続性によって価値を認められたものなのであり、現代人が言語化を最も不得意とする生命の価値についてなのだ。

つまりもっと分かりやすく言えば、どちらが生き残りの上で有利であるのか、いや、どちらがより神話として記憶化されるほど大規模かつ悲劇的な大量死を回避するのに有利であるのか、という、すでに生まれて仕舞った人類個々人の、公平な生存条件の実現という観点の、詩的表現に過ぎないのである。

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