小川さんのダブルヘッダー(ボクの予行演習)

ライヴの数を減らそうと思っていたので、今月は「風の、かたらい」への出演を断っていた。しかし、連れ合いが出演するので結局グッドマンに向かう。新しい録音装置のテストも兼ねて観客の一人として、と自分に言い聞かせながら。前回登場できなかった石内さんは、1回のブランクを埋めようとでも言うように、熱烈な(というかほとんど天井知らずの激烈さで)朗読パフォーマンスを見せてくれた(なんどもなんども)。嬉しくなって、思わず連れ合いと顔を見合わせて笑ってしまうことしばしば。あれには、そうとうなカタルシスがあっただろうな、石内さん… 。

休憩時間中に、石内さんがボクに、「小川さんは、今日このあとヴィオロンでライヴなので、行ってあげて」と言う。え? ということは、小川さんは昼のこのライヴと夜のライヴとダブルヘッダーなんですか? 

特に、ヴィオロンでの小川さんのライヴが「ソロ」だとは知っていたので余計に驚くが、本人に確認するとやはりそうだと言う。石内さんが共演者の小川さんに確認しないでブッキングするからこう言うことになるんだよ。まあいいや。しかし、これから「ソロライヴ」をやる人とは思えないほどの熱い演奏を「風の、」でも繰り広げていた。まったく惜しみない自己投機的な演奏。ゲストが多く出入りする「風の、」も面白いが、こういうレギュラーだけが作り上げるパフォーマンスも捨てがたい。この日の「風の、」を聴かなかった人は、音源を聴いたらおそらく羨ましがるほどのものだったね。「お客」として聴くのも良いものだぞ。

結局、ほとんど強制的なプッシュに答える形で自分もちょっとピアノを弾いたりはしたが… 。断るこれといった理由もないが、断れない雰囲気でもあるのだ。ただ、純粋にお客でありたいということも正直ある。

「風の、」の後、連れ合いは石内さんに付き合って買い物に出た。ボクは小川さんと共に別行動。「本番前に居酒屋に行きたくない」という小川さん(とボク)と、阿佐ヶ谷の具体的な居酒屋を指定してくる石内さんとの間で割れたのである。小川さんとは、荻窪駅西口の魚介系定食屋「さかなやの親戚」に行く。ここは、日本酒でも出したらそうとう「呑まれる」だろうと思うようなうまい魚料理(どんぶり中心)屋なのだが、ビール一つメニューにない。だから、というわけではないが(酔客を相手にしたくないのか)、このような界隈にあって妙に清潔な印象を受けるお店なのである。とにかく安く、美味い。サーモン+イクラ丼や中落ち丼なんかを800円以下で食べられるのであるから実にお得である。お通し代も請求されないし、お酒を飲まない人には一押しでお薦めなのである、「さかなやの親戚」。

7時前にヴィオロンに小川さんと行き、まだ時間があったのでいろいろ話す。話しているうちに、小川さんは録音する用意もないというので、ボクが持ってきていた機材を「ダメもと」で試してみることに。いつも使っている自分の標準マイクは持ってきているが、グッドマンと違ってヴィオロンにはマイクスタンドがない。椅子にテープで固定しての簡易録音となる。

店の床の低くなったところを「ステージ」とするが、そのための座席やテーブルの移動にはどうもルールがあるようで、それをマスターに教わる。これは今週金曜の自分のライヴのための予行演習のようなものだ。小川さんのために録音を設定したりしながら、電源の位置なども確認できたのである。最悪の場合、録音に「電源」は要らないが、ほかの機材には電源が必要だ。いろいろやりながら今度のライヴのための立ち(座)位置などを想像したりする訳である。

小川さんのライヴは7時を少し過ぎてから始まった。ライヴに来ることさえグッドマンに行くまで定かでなかったのに、当日しかも演奏前の1時間くらい前にいきなりゲスト出演を頼まれた。前半と後半のそれぞれ1回ずつ、ピアノを弾く。この重たいアップライトピアノを弾いたのは永山とのデュオライヴをやって以来。これも計らずに予行演習のたぐいとなる。しかし、小川さんとのデュオというのも、いつやっても楽しい(後半のときはやや苦しかったが、苦しみが頂点に達したときにブレイクスルーがあった)。

「店によって(客層によって)演奏の内容をある程度変えた方が良い」とお客さんを選ぶようなことを言うひとがいた。その意見は確かに理解できるのだが、そうすることがお客さんのためにも、自分のためにも良くないということが、あるのだ。お客さんの「聴き分ける能力」というのを過小評価してはいけないのだ。ただ、自分にはそうした「正論」はあっても、その意見の意味もそれはそれで分かるのだよ。問題は、そんなに器用に自分を使い分けられていない、という技量の問題でもあるんだけど。聴きやすい音楽を、という個人的なテーマはある。だが、それを急に頼まれたフリー即興の(それも小川さんとの)ライヴでやるほどに自分をまだ鍛えていない、というのが真相。

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