Archive for October, 2010

チリ鉱山事故脱出劇とヴァッハ言説

Friday, October 15th, 2010

Phoenixあれだけわれわれを夢中にさせたのに、自分の周辺では案外コメントの少なかったのが、今回のチリ鉱山落盤事故の救出劇である。みんなも私と同じで、胸がいっぱいで言いたいことも多過ぎて言葉にならない、ということなのだろうと思うことにした。

この感動的な、勇猛果敢なひとびとと絶対に生き残ることを誓った人々の恊働の救出劇に釘付けになっていた自分と、時間をかけて拾い読みしていたヨアヒム・ヴァッハによる『宗教の比較研究』(法藏館)の中に、今回の注目すべき被災者たちのサバイバルの秘密と関係のありそうな信仰についての記述に出くわした。(「勝手にシンクロニシティ」ということで)備忘録として引用しておく。

昔からの成句、「一人のキリスト教徒はキリスト教徒ではない」は、他のあらゆる宗教についても当てはまる。フランスの学者ムルーはこの点をうまく言い表している。「信仰の同志と一体になって、人はあらゆるものの父である神に自己を捧げる。宗教的関係はきわめて個人的なものではあるが、個人主義的なものではあり得ない」。さらに彼は、人が神を求め見出すことができるのは、他者が神を求め見出すのに一緒になって協力する場合に限られると付け加えている。

チリ大統領が、信仰が今回のサバイバルに与えた力について語る(演説する)のを聞いたとき、最初、単なる政治的な意味合い以上の内容を持たない、つまりカトリックを敵に回さない典型的な常套的挨拶の言辞にすぎないと思うばかりであったが、このヴァッハによる記述に遭遇したとき、リアルな意味で、「掛け値なしの信仰」が彼らの生き残りに与えた力、について、まったくバカげたことでないばかりか、「信仰を自分らの力としない」ことに決めて久しいわれわれに送られた何らかのサインのようなものに思えるようになったのだ。