Archive for December, 2011

田中宇の《米国の「アジア重視」なぜ今?》を読む

Tuesday, December 6th, 2011

中国対米国という二大国の「対立」は、周辺国が大国の影響力を恐れるあまり、大国双方に都合の良い支配構造を自発的に提供する。それによってこれら大国が結局小国支配を巧くやり遂げるという意味では、かつての米ソ冷戦構造とも非常によく似ている。世界を二分するかに見えるいわゆる「冷戦構造」は、結局、米ソという大国にとって世界支配を容易にした。彼らが表面で険悪に対立しているかに見えるほど、周辺の衛星国は、「寄らば大樹」の傾向を強め、結果的に周辺国を従わせやすくする。

日本ではソ連などの社会主義国のアジアにおける覇権伸張を恐れて米国の国内駐留を歓迎したが、これはベルリンの壁崩後の世界においても継続した。「仮想の米中対立」、特に中国のアジアにおける勢力拡大という「そこにある危機」によって、日本を含む軍事的な弱小国家は米国への依存を余儀なくさせ、結局、TPPなどを通して米国の思うような支配構造の維持を助ける。つまり、中国は自国のアジアにおける影響力を堅持のためには、米国の覇権維持に協力するし、そのためにはアジアにおける脅威を演出し続ける。それによって米国の凋落を少しでも遅らせることができれば、自分たちのアジアにおける影響力のみならず、顧客としての米国の健全さを維持することができる。そもそも米国債を大量に買わされている中国は米国を簡単に凋落させることができない。

われわれは「何があっても」、米中が本気で対立しているなどと思ってはならない。中国は日本がアメリカに助けを求める程度には、南沙諸島などにおける国際間の緊張を高めることはやり続ける。そしてそれは米中両国の利益にかなったことだから終わらない。

以上のような観点からも、田中宇の《米国の「アジア重視」なぜ今?》における分析は相当信頼できるものと思われる。彼は米中の演出された対立を通して維持する世界覇権というコンテクストの中でTPPを説明する。彼の洞察によれば、やはりTPPは米国以外の諸国にとっては国を衰えさせるものと映っていることが分かる。

コラム終盤の…

アジア諸国は経済的に中国への依存を強め続ける。米国が今、アジアでとっている戦略 は、中国の優勢を強めるものだ。アジア諸国が弱体化した米国を見限るころには、アジア諸国は経済システムをTPPなどによってぼろぼろにされて弱くなり、 今より強くなる中国に従属せざるを得なくなっていく。米国のアジア重視策は「中国を封じ込めるふりをして、中国を強化する」「アジア諸国との同盟を重視すると言いつつ、アジア諸国を中国の方に押しやる」(略)。

また

米政府は「アジアから出て行かないから、アジアが駐留費を出せ。しかもTPPや米韓FTAに入って、米企業が儲かる国家システムに変えてくれ」と言っている。米国は悪くない。日本などアジア諸国の対米依存心が、米国に狡猾な戦略をとらせている。

というのはわれわれを目覚めさせるかもしれない観察を含んでいる。